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田中日記24編 板橋カップ2025〜準備編〜

俺たちは、登る前からドラマを作っていた。

春の匂いがしてきた3月中旬。

ファクトリーの空気が、なんとなくザワつき出す。

「そろそろ、あれっすね」

「うん、やるか…今年も」

こうして、恒例行事・板橋カップ2025の準備が、静かに始まった。

まず最初に手をつけたのは日程調整

これがうまくいかないと、全部終わる。

ホールド製作も、他のイベントも、全部が絡み合う時期に、

「この日しかない!」という一本をスパッと差し込む。

まるでオンサイトトライの一手目みたいな緊張感。

毎年この準備期間はとても忙しく、心のゆとりなんてない。

でも、今年はひと味違った。

俺には頼れる仲間たちがいた。

常連の面々が、「手伝い?やりますよ」と声をかけてくれて、

ホールドの洗い・仕分けは無事セット前に完了。

なんなら俺、ほとんどホールド洗っていない。代わりにスプレッドシートと格闘してたけど。

こういうとき、あらためて思う。

いい場所は、いい人たちがつくってる。


今年の常盤台クラスには、**新システム「決勝トーナメント」**を導入。

構想から調整まで、まるで大会をもう1個作ってるかのようだった。

「この場面でふるいにかけて…ここで爆発…いや、ここで感動…」

そう。俺たちは課題を作ってるんじゃない。ドラマを設計してるんだ。

セットに入ってからは、情熱がさらに加速する。

加藤さん、岩橋さんとの議論は特に熱かった。

「この課題、今のままだとみんな登れちゃうよ」

「でも削りすぎると、誰も登れない」

「ギリギリを攻めよう」

「はい」

そして始まる試登地獄。

ミリ単位の微調整、それ毎に再試登、また修正…の無限ループ。

気づけば全員、指皮と理性を削りながら笑っていた。

全員が疲れてる。

でも、全員が「この配置だ」「このムーブだ」と叫ぶ。

セットの喜びは、一撃よりも“共有”にあるって、思い知らされる。

 

俺の中にあったのは、ただ一つの想いだった。

“目指せる背中”を並べたい。

同年代のクライマーが、本気で挑んでいる。

その姿を見て、「俺もやってみようかな」と思えるような空間にしたかった。

そしてその背中の先には、

壁を支配するような登りを見せる“猛者たち”がいる。

そこに立つ姿が、自然と憧れになっていく。

「次はあそこに立ちたい」

「俺も、あのステージを目指して頑張ろう」

そう思えたとき、人は自然と挑戦したくなる。

求めたのは、登るグレードじゃなくて、登る理由。

その意味がちゃんと伝わる大会を目指して、

俺はずっと、ワクワクしながら準備を進めてた。

やること多すぎて目が回りそうな日々だったけど、

正直、「やめたい」と思ったことは一度もなかった。

それどころか、

みんなが登ってる姿を想像するだけで、ニヤけてた。

すべての課題が仕上がった夜、

マットに寝転がって、ホールドを見上げた。

ファクトリーは静かだったけど、

俺の心の中には、すでに大会の歓声が響いてた。

伝えたいことは一つだけ。

板橋カップで起きる感動は、唯一無二。

観てるだけじゃもったいない。

当事者になって、体感してほしい。

予告:

【田中日記|板橋カップ当日編】

朝6時、まぶたが開いた。

体はまだ重い。でも、心はもう前を向いていた。

積み重ねてきたすべてが、今日に繋がっている。

あとはやるだけ、みんなを信じて。

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