いつもの壁が、特別な舞台になった日

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朝7時。
目覚ましより少し早く目が覚めた。
思ったより、落ち着いてた。
緊張してるというより、「よし、いくか」って感じ。
ちゃんとスイッチが入った自分がいた。
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会場に入って、最初にやったのは協賛品の撮影。
前日に届いたアイテムを並べながら、
「ありがたいなあ」と思いつつシャッターを切る。
その横で、スタッフたちが黙々と準備してくれていた。
ピリついてはいない。でも静かすぎもしない。
ちょうどいい温度感で、みんなの動きが噛み合っていく。
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本番が始まってからは、もうとにかくマイク。
今年初の試みだった常盤台クラスの決勝トーナメント、
スタッフも選手も全員ちょっと混乱気味で、
「りょうくん、次ってどうなるんだっけ?」の声が止まらない。
走りながら喋って、また仕切っての繰り返し。
でも、それが全然嫌じゃなかった。
むしろ、ちゃんと楽しかった。
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印象的な場面はたくさんあった。
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サカモトパパ
去年からクライミングを初めて今回が初めての板橋カップ。
いつもは陽気な関西おじさんだが、この日は一味違った。
予選、あと1完登で決勝進出。
頑張るお父さんって、こんなにもかっこいいんだな。

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サブちゃん
去年、清水町クラスで3位。
今年は1つ上のクラスで、また3位。
決勝1課題目のオンサイトは、本当に見事だった。
しっかり力をつけて、また戻ってきたその姿に、ちょっとグッときた。

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かるめん
文句なしの今年のキング。
全完。決勝でも唯一の完登。
ひとつひとつのムーブが説得力ありすぎて、誰も何も言えなかった。
こういう日って、あるんだなと思った。

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会場にあったのは、本気と、笑いと、尊敬。
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アサシンとまあちゃんの対戦。
普段から一緒に登ってる2人が、
いつもの壁で、いつものような課題を、
でも今日は“対戦”としてやってる。
なんだか不思議で、ちょっと笑った。

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決勝戦、対戦が終わった後に交わされた握手。
バチバチだったのに、終わればふつうに笑ってる。
でも、あの一瞬にはちゃんとリスペクトが詰まってた。
見てるこっちも、なんか嬉しかった。

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終了直後、口から出たのは一言。
とりあえず、一段落。
次の日はキッズの部。
その次からは通常営業。
やることは、まだ山ほどある。
でも——
今日のぶんは、今日できっちり終えられた。
それだけで、もう十分だった。
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明けて、翌朝。
キッズの部のはじまりだ。
ワクワクで登場してくる子どもたちの顔を見るたびに、
「昨日のあの熱狂が、次につながってる」
そんな感覚があった。
会場の空気は、前日とは少し違っていたけど、
子どもたちなりの“真剣さ”と“楽しさ”が、壁をちゃんと特別にしていた。
静かな感動だった。
疲れの中に、じんわりと沁みてくるものがあった。

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すごかったのは、課題でも演出でもなく、
参加者たちの輝きだった。
それぞれにドラマがあって、
それがちゃんと目に見えて、空気を変えていった。
この日記を読んで、
「なんか来年出てみたくなったな」って思ってくれたら嬉しい。
「こんなに参加者を思ってくれてるんだな」って、
少しでも伝わったなら、それで十分です。
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予告:
【田中日記|常設セット編】
「大会が終わったら、やっと休めるんですか?」
いや、まだ。
コンペは一夜限りの映画。
常設セットは、ここから始まる一年のストーリー。
俺たちの“本番”は、ここからだ。