S:それでは今回は、チーフルートセッターとしてのりょうくんをゲストにお迎えしています。
S:まず、そもそもチーフルートセッターとは何ですか?
R:クライミング業界では、課題を作る人をルートセッター、その全体を統括する人をチーフルートセッターと呼びます。
R:正直、やっていることは例年とあまり変わりません。ただ、会社の株式会社化に伴って、スタッフそれぞれに役職名を付けようとなった時、林さんが「一番似合うのはこれじゃない?」と付けてくれた肩書きです。
S:名刺に書いてあったら、ちょっと格好いいですね。
R:最初は照れましたけど、今は愛着がありますね。
S:役割自体は変わらないとのことですが、今年は新しく取り入れたことはありましたか?
R:はい。今年はセッターごとに役割を少し明確にしました。
R:例えば、ゲストの今泉さんには、このグレード帯をお願いしたいという依頼をしたり、レギュラー陣には「シンボリー課題」を意識して作ってもらったりしました。
S:シンボリー課題とは何でしょう?
R:「象徴的な課題」という意味です。
R:壁を見た時に、「これ登ってみたい」と自然に目が行くような課題ですね。
S:そういう課題は、自然とできるものではないんですか?
R:実は、そうでもないんです。
R:人気になりそうなホールドや格好いい配置って、どうしても難しい課題に使われがちなんですよね。
R:逆に、易しめから中間くらいのグレードは、余ったホールドや空いている壁に貼られて、少し地味になってしまうことがあります。
S:登る人も、そういう雰囲気は感じるものですか?
R:なんとなく感じると思います。
R:だから今回は、一番自由にセットできる初日に、「このホールドを使って、このグレードを作ってください」とお願いしました。
R:例えば7級Pや6級Eなんて、ホールドが豪華なので、きっとみんな挑戦したくなると思います。
S:そこまで低いグレードにも気を遣う必要がありますか? ファクトリーは、東京でもハードなジムという印象があります。
R:必要あります。
R:東京のジムとはいえ、ここは住宅街です。飲食店でいうなら、町中華みたいな立ち位置だと思っています。
S:町中華ですか。
R:もし住宅街の中華屋さんが、本場の料理しか出さなかったら、お客さんは限られますよね。
R:でも、定食もおすすめできて、本格中華もある。その方が、多くの人に喜んでもらえると思うんです。
S:つまり、ハードな課題だけではラインナップが足りない。
R:そうです。
R:うちは四段までありますから、難しい課題という意味では十分「ガチ中華」です。
R:だからこそ、入口になる課題を大切にしたいんです。
S:特に意識したグレードはありますか?
R:8級、7級、6級ですね。未経験者や初心者の方が、最初に挑戦する機会の多いグレードです。
S:難しくするのではなく、登れることを意識したと。
R:はい。
R:課題に挑戦して、できなかったら何度でも試行錯誤する。その過程が、クライミングの一番面白いところだと思っています。
R:でも、やっぱり完登したいじゃないですか。
R:挑戦する楽しさと同じくらい、「登れた!」という喜びを届けることも大切です。
R:だから今年は、このグレード帯では、まず完登してもらうことを目的に作りました。
S:成功体験が、その先につながると。
R:そうですね。
R:まずは成功体験を多く積んでもらう。そのあとで、すぐにはできない課題に取り組むことの大切さや、より効果的に登るため試行錯誤する楽しさを知ってほしいんです。
R:もちろん、すべてのグレードで完登を目指してほしいですけどね。
R:この考え方を、去年よりも強くセットに反映したことが、今年の大きな違いです。
S:そうすると、そういうおすすめ課題は、チーフのりょうくんが担当したんですか?
R:いえ、それは違います。
R:大前提として、セッターは全員スペシャリストです。イメージさえ共有できれば、皆さん本当に素晴らしい課題を作ってくれます。
S:では、チーフの役割は?
R:味見ですね。
S:料理でいう味見。
R:そうです。
R:試登をして、辛さにあたる難易度や、味付けにあたるムーブを確認して、細かな調整をしていく役目です。
R:完成させるのは一人ではなく、みんなです。
S:料理の例えが出ましたが、今シーズンの課題における「麻婆豆腐」はどれですか?(笑)
R:135度壁の4級、スラッシュですかね。
S:お店の看板メニューということですね。
R:そうです。
R:実力がある人なら、毎回頼みたくなる。初心者なら、「いつかこの辛さを食べられるようになりたい」、つまり「いつか登れるようになりたい」と思える。
R:そんな両方の立場を満たせる、ちょうどいい課題だと思います。
S:この調子で、全課題を料理に例えていただきたいところですが。
R:勘弁してください(笑)。
R:でも、課題をただ登って終わるものではなく、一つの商品として価値を持たせる取り組みは、これからもっと進めていきたいと思っています。
S:課題の魅力を、何か新しい形で伝えていくということですね。
R:はい。そのあたりも、今後楽しみにしていてください。